東京都職員
U さん
O さん
東京歴建の価値を高めていきたい|「With!東京歴建プロジェクト」への想い
2024年1月、「With!東京歴建プロジェクト」がスタートしました。このプロジェクトでは、「東京都選定歴史的建造物(以下、東京歴建)」をより多くの方々に知ってもらい、長期的に保全することを目指しています。そのプロジェクトメンバーである東京都職員のUさんとOさんに、東京歴建との出会い、「With!東京歴建プロジェクト」を始めることになった背景と経緯、プロジェクトを通して実現したいことを伺いました。
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「東京歴建」を知り、訪れることで、愛着が増していった
- まずは「東京歴建」について、簡単にご紹介をお願いします。
- Uさん:東京都では「東京都景観条例」に基づき、歴史的な価値を有する建造物のうち、景観上重要なものを「東京歴建」に選定してきました。2024年7月現在、99件が選定されています。
- Oさん:東京歴建には大きく4つの選定基準があります。「歴史的な価値を有する建造物で、原則として建設後50年を経過しているもの」「東京都の景観づくりにおいて重要なもの」「できるだけ建設当時の状態で保存されているもの」「外観が容易に確認できる(外から見える)もの」です。文化財ではないけれども、地域のランドマークと言える歴史的景観を形成している建造物を東京歴建に選定しています。
- お二人が東京歴建に関わるようになった経緯を教えてください。
- Uさん:30年以上前に都庁に入庁してからまちづくりに関する業務に携わってきましたが、2023年4月から初めて歴史的建造物の業務に関わることとなりました。
私は昔から歴史のある建物を見るのが好きだったので、この業務に関われることとなったことに何かの縁を感じました。
- Oさん:私は、2023年4月から、東京歴建の魅力発信事業に携わることになりました。
- 「東京歴建」に関わり始めて新たな気づきはありましたか?
- Oさん:私は、東京歴建について何も知らない状態からのスタートでしたが、東京歴建の一覧を見ると、よく知っている身近な建造物が選定されていることを知りました。
実際に東京歴建に訪れてみると、建造物そのものはもちろん、その建造物が織りなす歴史的景観の存在感に驚きました。建造物のあちらこちらに細かな工夫が施されていて、思わず見とれてしまいました。23区内にある東京歴建は高層ビルに囲まれているものが多いですが、その中でも凛として佇み、かつての街並みの面影を感じさせる姿に感動したのを覚えています。実際に訪れることで、写真では伝わらない魅力を感じることができました。
- Uさん:過去に訪れた事のある建造物の中にも東京歴建に選定されているものがあることを知り、身近に感じたのを覚えています。東京歴建の選定過程では、有識者や建物所有者と話す機会が多く、建築に関する話をすることがよくあります。私自身、歴史ある建造物を見て感動することはあったものの、いつ誰が建てたのか、建築の観点でどんな特徴があるかまでは調べていませんでした。有識者や建物所有者と話す中で、東京歴建に関する多くのストーリーを知り、これまで以上に興味を持ちました。
- お二人のイチオシの東京歴建はどれですか?
- Uさん:初めて見たときに驚いたのが、東京都八王子市にある『大学セミナーハウス本館』です。子供のころに見た特撮ヒーロー番組の舞台にもなったことのある建物ですが、他の建物と比較しても異色で「本当にこんな建物があるのか!」と驚きました。
- Oさん:私のイチオシは、都営大江戸線「若松河田駅」にある『小笠原伯爵邸(旧小笠原邸)』です。新宿区という都会の真ん中にありながら強い存在感を放っていて、四季折々の植物を楽しめる庭園も魅力です。廃墟同然だった建物を、インターナショナル青和株式会社さんが中心となって、地域の方々と協力されながら現在の姿へと甦らせ、現在はレストランやウエディングに利用されています。
これまでの歴史を含め、興味深いエピソードがたくさんあり、魅力的な場所だと思います。
左:大学セミナーハウス本館 右:小笠原伯爵邸(旧小笠原邸)
「With!東京歴建プロジェクト」を始めることになった背景と経緯
- 「With!東京歴建プロジェクト」を立ち上げた背景について教えてください。
- Oさん:文化財の建造物と東京歴建を比較すると、知名度に大きな差があります。一般的に文化財の知名度は高いですが、東京歴建は知らない方も少なくありません。
しかし、知名度が低いから東京歴建の価値が低いということでは決してありません。東京歴建の制度や魅力の認知が拡大することで、建物所有者の保全に対する考え方にもプラスの影響を与えられるかもしれないと考えました。
当初は、東京歴建の認知拡大と訪問者増加を目指し、PR動画の制作と行動分析ツールの導入を検討していました。一方で、それだけで訪問者が増えるのかという疑問もありました。
ちょうどその頃、庁内で「現場対話型スタートアップ協働プロジェクト」という、スタートアップと東京都職員が協働して、都政現場の困り事を解決する取組の募集があり、「これはチャンス!」と考え、手を挙げました。
いろいろなスタートアップとの対話を通して、ツールを導入するだけでなく、東京歴建という制度自体の理解や共感を促すことが重要だと考えるようになりました。
最終的に5社からの提案があり、審査会を通して「株式会社ホーン」さんと協働で「With!東京歴建プロジェクト」を立ち上げました。
「With!東京歴建プロジェクト」を通して、まずは東京歴建を知ってほしい
- 最後に、プロジェクトを通して実現していきたいことを教えてください。
- Oさん:「With!東京歴建プロジェクト」を通して、まずは一人でも多くの方に東京歴建を知り、目に留まった建造物に訪れてほしいですね。実際に訪れていただくことで、東京歴建や歴史的景観への愛着が生まれ、プロジェクトへの共感が得られると思います。
建物所有者にとって、歴史的建造物の維持管理は大きな負担です。建物所有者の経済的負担を軽減するため、「東京歴史まちづくりファンド」による保存・活用工事等への助成を行っています。プロジェクトを通して東京歴建の認知を拡大することができれば、ファンドへの寄付にもつながると考えています。
また、プロジェクト化することで、東京歴建の保全を持続可能な活動として確立したいと考えています。私たち職員は定期的に人事異動があるため、同じ職員がずっとこのプロジェクトに関わることはできません。しかし、プロジェクトという軸をつくることで、担当が変わっても東京歴建を未来につなぐ取組を継続できると考えています。
- Uさん:東京をより魅力的な街にしていくためには、歴史的景観を守り、親しみ、育て、さらに良好な景観づくりに活かしていくことが大切です。地方の宿場町などでも、多くの人が集まる場所は、歴史的景観を守りながら活かしているところが多いですよね。このプロジェクトを通して、東京にも魅力的な歴史的建造物が多くあることを知っていただき、保全につなげていきたいです。
- Oさん:他にも、プロジェクトを通して東京歴建と都民、観光客の新たな関わり方をデザインしていきたいと考えています。私自身、もともと歴史的建造物への興味はありませんでした。しかし、仕事を通して実際に足を運び、建造物の歴史背景や価値、所有者の想いなどにふれることで、東京歴建の魅力にどんどん惹かれていきました。こうした体験を多くの方に味わっていただけたらと考えています。さまざまな角度から東京歴建の魅力を発信することで、今までにない一歩進んだ関わり方を提案していきたいです。