旧博物館動物園駅
板屋 充 さん
山﨑 健司 さん
鉄道施設初の東京歴建。新たな役割を担う『旧博物館動物園駅』
2018年、鉄道施設として初めて「東京都選定歴史的建造物(以下、東京歴建)」に選定された『旧博物館動物園駅』。「駅」としての役割は1997年に終えましたが、リニューアル工事を経て、「文化・芸術」の場の一端を担う施設へと変わりました。
多くの文化施設が集まる上野で、この東京歴建がどのような役割を担ってきたのか。この建物を所有・管理している京成電鉄株式会社のお二人にお話を伺いました。
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上野「文化の杜」新構想が駅舎保全の転機に
- お二人の『旧博物館動物園駅』との出会いについて教えてください。
- 板屋さん:昔から京成沿線に住んでおり、博物館動物園駅は身近な存在でした。幼少の頃、上野動物園にパンダを見に行ったときにこの駅で降りたのが最初の出会いです。その後、上野にある高校に進学したのですが、美術の授業で上野公園に来ることがあり、この駅から電車に乗って帰宅することもありました。
その後、1992年に京成電鉄に入社し、車掌として勤務する中で業務としてこの駅に関わるようになりました。時を経て計画管理部に異動し、この駅と再会しました。
- 山崎さん:私はこの駅のことは深くは知りませんでした。2025年春から計画管理部に配属され、『旧博物館動物園駅』の活用を担当することになり、詳しく調べ始めました。初めて駅舎の内部に入ったとき、ギリシャ神殿のような空間が広がっていて驚きました。こんな空間が存在していたのかと、とても興奮したのを覚えています。
- お二人が所属する鉄道本部 計画管理部はどんな役割を担っているのでしょうか。
- 板屋さん:計画管理部では、『旧博物館動物園駅』などの施設の活用を主に担当しています。施設の保全を大前提としつつも、旅客誘致や沿線価値向上の観点から施設をどう活用すべきか。地域や他団体の方々と連携を図りながら、さまざまな施策の企画・実行に取り組んでいます。
ありがたいことに、企業や団体との連携についてさまざまなお声がけをいただいています。一方で歴史のある建物ですので、保全との両立を考えると通年での使用は難しい部分もあります。こうした制約を踏まえながら、文化的な発信を軸にどのような連携ができるか検討を進めています。
- 山﨑さん:こうした活用は自社のPRにもつながりますが、何より重要なのは地域振興や沿線価値の向上です。さまざまな要素を総合的に勘案しながら検討していますが、歴史のある建物ということで、通常の駅舎とは異なる視点が求められる難しさがあります。
- 1997年に営業休止した『旧博物館動物園駅』ですが、なぜ歴史的建造物として保全・活用することになったのでしょうか。
- 板屋さん:博物館動物園駅はホームが短く、4両編成の列車しか停車できなかったため、徐々に利用者が減少し、1997年に営業休止、2004年に廃止となりました。廃止した駅をどうするか議論されましたが、なかなか方針が決まらず、しばらくそのままの状態が続いていました。
そんな状況が変わったきっかけは、上野「文化の杜」新構想です。2015年7月に取りまとめられたこの構想では、上野エリアを文化の一大発信地として盛り上げることとされ、『旧博物館動物園駅』の活用も明記されていました。これを受け、京成電鉄としても駅舎を保全し活用する機運が高まりました。
特別な土地に建つ駅舎、維持管理の苦労と工夫
- そんな経緯で保全された『旧博物館動物園駅』にどういった想いをお持ちですか。
- 板屋さん:私にとっては幼少期から学生時代まで多くの思い出があり、とても愛着を持っています。社員になってからも業務でも関わってきたので、自分にとっては特別な場所です。この駅の最終営業日は、ちょうど早番だったこともあり、同僚何人かと最後のお別れにも行ったほどです。電車に乗っていると窓からホーム跡が見えることもあり、今でも通りかかったときはつい見てしまいます。
- 山崎さん:さまざまな人にとっての思い出の空間であるのと同時に、歴史のある建物としてもとても興味深いものだと感じています。皇室で代々引き継がれてきた「世伝御料地(せでんごりょうち)」という特別な土地での工事だったこと、それゆえに御前会議での天皇陛下の勅許を得る必要があったことなど、建物がつくられた経緯は強く興味を惹かれます。建物自体のデザインも他の駅舎にはないものだと感じますね。
- 建物を維持管理していく上ではどんな苦労や課題があるのでしょうか。
- 板屋さん:歴史的価値を保全しつつ、現代基準での安全性を確保すること。そのための資金を確保すること。さらには周辺エリアとの調和など、多くの課題があると感じています。
「世伝御料地」に建てられていた駅舎だからこそ、修復の際にも荘厳な外観を保たなければなりません。建設当時の素材や技法を再現する必要があるため、専門家に依頼することもあります。また駅舎内が老朽化しているため、どのように修復すべきかなど、現在も課題を抱えています。
- 2018年のリニューアル工事の際にはどのような課題がありましたか。
- 板屋さん:東京藝術大学と京成電鉄が連携・協力して駅舎をリニューアルすることになりました。その際に議論をしたのが、「どの時期の駅舎に復元するのか」ということ。1933年の開業当時の美しい姿に戻すのか、営業休止時のありのままの姿とするのか。さまざまな意見がありましたが、最終的には営業休止時の思い出が詰まった空間を残すことになりました。
- 山崎さん:営業休止時の雰囲気を残しながらも、外観の荘厳さなど建築当初の美しさをどう取り戻すか、多くの苦労や工夫があったようです。東京藝術大学の日比野克彦先生がデザインした正面扉についても、あえてエイジング処理を施すなど、全体との調和を考えて細かな工夫がなされています。
- そうして甦った『旧博物館動物園駅』は、今どのように活用されていますか。
- 山崎さん:企業や団体との連携を通じて、この駅舎を多くの方に知っていただく取り組みを行っています。上野動物園とは、ジャイアントパンダ来園50周年の際に記念イベントを実施しました。アニメやアート系のイベントなど、今後も積極的に取り組む考えです。
- 板屋さん:こうした取り組みによって、営業当時を知らない若い世代の方にも『旧博物館動物園駅』を知ってほしいと考えています。その結果、鉄道ファンや歴史的建造物が好きな方だけでなく、アニメが好きな方、アートに興味がある方など幅広い層に興味を持っていただけています。
鉄道施設初の東京歴建、その価値を広く伝えたい
- 2018年に「東京都選定歴史的建造物」に選定されたときの想いを教えてください。
- 板屋さん:鉄道施設としては初めての選定で大変光栄に思っています。東京歴建に選定されたことで、改めてこの駅の価値を再認識することもできました。
- 山崎さん:この駅舎以降、東京歴建に選定された鉄道施設はまだありません(2025年11月現在)。鉄道施設として初めて選定されたということを活かしたいと考えています。ありがたいことにさまざまな活用のお声がけもいただいており、積極的に取り組んでいきます。
- 『With!東京歴建PROJECT』に期待することはありますか。
- 山崎さん:『With!東京歴建PROJECT』では、プロモーション動画への登場、2025年3月の見学ツアーの開催、パンフレットへの掲載など、さまざまな形で私たちの駅舎を取り上げていただき、とてもありがたく思っています。都内には多くの東京歴建がありますので、それぞれの価値や魅力、保全の重要性について、より多くの方に関心を持っていただけるプロジェクトであってほしいと期待しています。
- 最後にメッセージをお願いします。
- 板屋さん:『旧博物館動物園駅』の建物としての魅力はもちろん、この建物がつくられた経緯など歴史的な価値も知っていただきたいです。例えば駅舎の正面扉には、上野を象徴する文化・教育施設をテーマにした9つのモチーフが施されています。「このモチーフはどの施設かな」と会話し、そこからその施設を訪問するなど、上野に親しむきっかけとなれば非常に嬉しく思います。
- 山崎さん:『旧博物館動物園駅』が位置する一帯は、上野「文化の杜」新構想において、谷中・根津・千駄木・日暮里・上野公園をつなぐポイント「アート・クロス」として、文化拠点の役割を担うことが期待されています。当社としても、この建物の歴史的価値を維持し、未来につなげたいと考えています。
『旧博物館動物園駅』を訪れる皆さんには、東京歴建としての価値を感じていただくとともに、この建物を起点に上野エリア全体を散策し、美術館や博物館を訪れるなど、上野の魅力を存分に感じていただきたいです。