大学セミナーハウス
外村 幸雄 さん
田邊 治樹 さん
『大学セミナーハウス』が問う|令和の「東京歴建」活用法
東京都八王子市、住宅街から少し離れた緑豊かな場所に、『大学セミナーハウス』はあります。1965年に開館したこの施設は、2015年に開館50周年を迎えました。そして2017年には、本館が「東京都選定歴史的建造物(以下、東京歴建)」に選定されました。
『大学セミナーハウス』の運営管理に携わる専務理事 事務局長の外村 幸雄さん、広報室 室長の田邊 治樹さんに『大学セミナーハウス』の置かれている状況、今後の展開、「With!東京歴建プロジェクト」への期待などを語っていただきました。
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東京歴建に選定されたことで注目度が高まった
- 『大学セミナーハウス』について簡単に、ご紹介をお願いします。
- 外村さん:『大学セミナーハウス』は、「指導教授を中心とする学生の小集団に対し研学、修練、交際の場を提供すること」「大学相互の諸活動を円滑にすること」という目的のもと設立され、1965年7月に開館しました。世界的な建築家であるル・コルビュジエの教えを受けた吉阪隆正氏が設計を担当し、「大地に知の楔(くさび)」をコンセプトとした本館の形状がとても特徴的です。
- 田邊さん:宿泊施設付きのセミナー施設であることも『大学セミナーハウス』の大きな特徴です。大学に関係なく横断的に集まり、学び、交流するというコンセプトで立ち上げられました。
- お二人が『大学セミナーハウス』の運営に関わるようになった経緯、はじめて見たときの印象を教えてください。
- 外村さん:私は、2015年6月から『大学セミナーハウス』の運営に関わっています。それ以前は中央大学の職員として広報やキャリアセンターなどの業務を担当していましたが、中央大学の前学長が『大学セミナーハウス』の館長として勤めていた縁で、手伝ってほしいと声をかけられて勤務することになりました。
勤務する数年ほど前に講演の講師として訪れたことがありました。その際は本館を見て「威圧感のある建物だな」と感じたのを覚えています。働くことになり、建物の理解を深めていく中で、独自のセミナーを主催していたり、大学を横断した学びや交流の場を提供したりしていることを知りました。このような取組みをしている施設はあまりなかったので興味深く感じましたね。
- 田邊さん:私はもともと出版社に勤めており、その後はフリーランスとして働いていました。仕事が落ち着いたタイミングで、他の仕事をしようと考えていたところ、ご縁があって、2019年から『大学セミナーハウス』の運営に携わることになりました。
はじめてこの施設を知ったのは、運営にかかわるより前、知人のイベントの見学に来た時です。私は信州出身ということもあり、自然豊かな環境に魅力を感じました。建物の形状もいい意味で普通ではなく、面白いと感じました。
- 『大学セミナーハウス本館』が東京歴建に選定された際はどのような反応がありましたか。
- 外村さん:『大学セミナーハウス本館』は建築としての評価が高い建物です。1999年にはDOCOMOMO Japanより「日本におけるモダン・ムーブメントの建築No.019」に選定されました。2015年に開館50周年を迎え、2017年、歴史的価値も加わったことで東京歴建に選定されました。
※東京歴建の選定基準の一つに「築50年以上」という条件があります。
利用者の反応としては、東京歴建に選ばれたということで特別感を感じて建物に注目する方がたくさんいらっしゃいました。運営者の立場としては、東京歴建に選定されたことで、新しいアピールポイントができたと感じました。また、歴史ある建物は維持管理や修復に費用がかかりますから、助成金をいただけるのは魅力でした。
- 田邊さん:建物に関する注目度はかなり上がったと聞いています。ここ数年は、設計者である吉阪隆正先生に関連するイベントが続いていたこともあり、「イベントでこの建物を知って興味を持った」と週末だけでなく平日にも足を運んでくださる方が多くいらっしゃいます。
建物としての魅力を維持しながら、時代に合わせて変化していく
- 『大学セミナーハウス本館』の維持管理について教えてください。
- 田邊さん:『大学セミナーハウス本館』は、ピラミッドを逆さにしたような独特の形状が大きな特徴ですが、それが維持管理の難しさにつながっています。一般的な建物と形状が異なるためコンクリートの耐用年数をどう見積もればいいのか、建築当時の情報が分からないという難しさもあります。他にも、外から窓ガラスを拭くのが難しいという日常的な問題もあります。
建物内部については、階段の手すりやドアノブ、部屋番号プレートなど、細部にわたり随所にオリジナリティが発揮されています。これらを今の時代に維持管理、修復するにはかなり費用がかかってしまいます。
『大学セミナーハウス本館』は、かなり丁寧に作られていて、面白い建物です。その魅力をできるだけ保全したいと思う一方で、どこまで費用をかけるのかという問題もあります。
- 宿泊施設付きセミナー施設ならではの難しさはありますか?
- 外村さん:いかに時代に合わせた集客をするのか、ということです。新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛時には、大きな影響を受けました。『大学セミナーハウス』では寝食を共にして交流することがコンセプトですが、「密になる」ことができなくなってしまいました。セミナーもオンライン開催が主流になるなど、教育のあり方、交流のあり方がニューノーマルへと移行しました。
- 田邊さん:私たちも、オンラインやハイブリッドセミナーなど、運営方法をアップデートしています。しかし、人の集まり方が根本的に変わってきている状態で、八王子市にあるこの施設に集まる機会はコロナ前の水準には戻っていません。
一時期は6万人ほどいた年間利用者が、今では2万人強まで落ち込んでしまっています。今後は3万人を目指したいと考えています。
- 『大学セミナーハウス』の魅力を活かすために、今後はどのような運営をする計画ですか?
- 外村さん:時代の変化に合わせて新しいニーズも生まれてきますので、歴史的建造物としての特別感を維持しつつ、柔軟にニーズに対応することが必要だと思います。具体的には、「都心から少し離れた自然豊かな場所にある」「宿泊施設もある」「大小合わせて20のセミナー室がある」という特徴を活かしながら、新しい利用方法を提案していきたいと考えています。
- 田邊さん:新しい利用方法も生まれ始めています。2024年2月には、大小さまざまなセミナー室で「蜃気楼大学」という講義フェスが賛助会員団体によって開催されました。参加者は1日最大5講義まで参加でき、講堂に出展しているブースも訪問できます。各講義はオンラインでも視聴することができるなど、面白い活用方法だったと感じています。敷地内にたくさんのセミナー室があるという個性を活かし、今後も新しいイベントのあり方を模索していきたいです。
- 外村さん:ハード・ソフト両面の特徴を活かしながら、さまざまなイベントのプラットフォームになることが今後の目標です。必要に応じて修復をして東京歴建としての建物自体の魅力を残しつつ、ネットワーク環境などを進化させるなど、利用者が快適に楽しめるような設備環境を整えていきたいと思っています。
建物と自然を実際に見てもらい、新しい活用方法を提案してほしい
- 地域の方々との交流はいかがでしょうか?
- 外村さん:近隣の方々との交流は、とても大切にしています。例えば、サッカースクールの子どもたちと近隣の掃除を一緒にしたり、セミナー室で書道教室をしたりする活動を行っています。他にも、留学生会館では、留学生向けの論文賞コンクールの開催など、留学生の方々との交流も行っています。
- 田邊さん:地域の方々の中でも、建物を見るだけでなく、自然を楽しみたいという理由で来てくださる方もたくさんいらっしゃいます。敷地内の植生の調査や、枝落としなど、ボランティアとして関わってくださる方も少なくありません。とても嬉しく思っています。
- 外村さん:『大学セミナーハウス』という名称から、大学関連の方向けの施設だと考える方もいるかもしれませんが、全くそんなことはありません。どなたでも利用できる施設なので、まずは見学だけでも、足を運んでいただきたいです。過去には、名称を『大学セミナーハウス』から、「八王子セミナーハウス」に変更しようとしたこともありました。しかし、アカデミックな雰囲気がなくなってしまうという声があり、『大学セミナーハウス』という名称を維持しています。
- 田邊さん:現在はホームページでも、大学以外の幅広い利用者を受け入れていることを記載しています。最近では、企業やNPO法人の利用も増えていますし、プロ野球球団の応援団の利用もありました。広く門戸を開放していますので、いろいろな方々にぜひご利用いただきたいです。
- 「With!東京歴建プロジェクト」にはどのようなことを期待しますか?
- 外村さん:「東京歴建」という特別感は武器になるので、うまく活かしていきたいと考えています。「With!東京歴建プロジェクト」を通して「東京歴建」として認知されるのをきっかけにいろいろな活用方法を提案してもらえたら嬉しいです。ここだからこそできること、ここでしかできないことがあると思います。「大小合わせて20のセミナー室がある」「宿泊施設がある」「バーベキューができる」「都会から少し離れた自然豊かな環境がある」などの特徴を活用しながら、ダイナミックなことを仕掛けていきたいです。
- 田邊さん:「With!東京歴建プロジェクト」を通して多くの方に認知していただき、いろいろな使い方を考えてもらい、団体利用につながれば嬉しいです。セミナー施設に加え、宿泊施設、豊かな自然、そしてネットワーク環境など、本館をはじめさまざまな施設があります。私たちができるのは場を提供することです。利用者の方には新しい活用方法をどんどん考え、提案してほしいです。ニーズに合わせてサポートしますので、フロントスタッフにも、お気軽にご相談ください。
- 最後に、『大学セミナーハウス』に興味を持った方へ、メッセージをお願いします。
- 田邊さん:「建物を見る」「写真を撮る」「スケッチをする」「夜に星を見る」など目的は何でも構いませんので、まずは足を運んでほしいです。団体での利用だけでなく、設計者の吉阪隆正先生が好きで一人で宿泊したいという方もいらっしゃいます。企業での合宿やイベントなどもできます。「都会から離れた場所で過ごしたい」「1週間ほどテレワークがしたい」といった理由でもぜひ活用していただけたら嬉しいです。
- 外村さん:「東京歴建に興味がある」「自然に興味がある」「教育に関心がある」などきっかけは何でも構いません。一人でも良いので、まずは足を運んでいただき、建物や自然を見ながら、なにか活用できないかと考えてもらえたら嬉しいです。『大学セミナーハウス』が知的活力あふれる場所であり続けるよう、私たちはいろいろなチャレンジをしていきます。ぜひ、私たちが思いもつかないようなアイデアを持ってきてください。できる限り実現に向けサポートします。そこから一つでも新しいモデルケースが生まれれば、可能性はさらに広がって行くと期待しています。
9時から17時までの間であれば、施設内容を自由に見学していただけます。事前予約も必要ありません。本館内は、宿泊ルームや4階多目的ホールの利用時を除けば、ほぼ全館ご覧いただけます。パンフレットもありますので、ぜひ気軽に足を運んでください。