東京歴建の魅力

東京歴建の魅力をくわしくご紹介。

ぼたん

時を越えて受け継ぐ美意識|東京歴建『鳥すき屋 ぼたん』の建築美

REKIKEN

 東京都千代田区の神田須田町は、東京大空襲を奇跡的に免れた地域として知られています。この地には、鳥すきやき専門店『ぼたん』をはじめ、建築から100年近いの歴史を持つ店舗が現存し、今なお営業を続けています。

 『ぼたん』は、2001年に東京都選定歴史的建造物(以下、東京歴建)に選定され、2003年には千代田区景観まちづくり重要物件にも指定されました。伝統の鳥すきやきを守り続ける同店の建築的価値と歴史的意義をご紹介します。
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ぼたん

東京都千代田区神田須田町1丁目15番地 website: https://www.instagram.com/sukiyaki_botan/ tel: 03-3251-0577

1929年に建てられた鳥すきやき専門店「ぼたん」は、重厚な入母屋造りの外観と、部屋ごとに異なる意匠の天井や欄間など、大正から昭和初期の建築美を今に伝える歴史的建造物です。
1897年の創業以来、伝統の味と空間を守り続け、東京大空襲も免れた貴重な建物として、2001年に東京歴建に選定されています。

明治30年の開業から関東大震災後の再建へ

 『ぼたん』は1897年(明治30年)に開業しました。店名の由来は、意外にも花の牡丹ではありません。和服から洋服への転換期であった当時、洋服の「ボタン」が持つハイカラでお洒落なイメージに着想を得て名付けられました。

 1923年(大正12年)の関東大震災で焼失した後、1924年より再建に着手。各部屋ごとに趣向を凝らした細工や、富士山の溶岩を用いた滝の流れる坪庭など、建材の選定から職人の手仕事まで、一つひとつに心を込めた結果、完成までに約5年の歳月を要しました。

伝統と格式が息づく建築美

 神田須田町の街並みに佇む『ぼたん』の外観で、まず目を引くのは重厚な入母屋造りの屋根です。入母屋造りとは、切妻造りと寄棟造りを組み合わせた伝統的な屋根の形式で、寺社建築にも多く見られる格式高い意匠です。
格式高い入母屋造りの屋根を持つ『ぼたん』の外観
 玄関に足を踏み入れると、重厚な式台(しきだい:玄関の土間と上がり框の間に設ける板敷き)がお出迎え。視線の先には滝が流れる中庭が広がります。富士山の溶岩を主原料とした大きな岩と、悠々と泳ぐ金魚が、都心とは思えない静寂な空間を演出しています。天井に目を向けると、細やかな意匠が施されており、建築当時の職人の技と美意識を今に伝えています。
富士山の溶岩を用いた大きな岩と池が織りなす風情ある中庭

個性際立つ一階の座敷

 一階には6つの和室が設けられ、松・竹・梅・菊・牡丹・桐の名が付けられています。各部屋は、その名に相応しい意匠で統一されており、例えば「松」の間では、床柱に松の木を用い、欄間(らんま:天井と鴨居との間に設けられる採光や通風のための開口部)には松の絵柄が彫られています。建具や装飾の一つひとつに、職人の心配りが感じられます。
床柱から欄間まで、空間の調和を意識した造り
繊細な彫刻が施された欄間。職人の技が光る

歴史を物語る二階の大広間

 階段を上ると、二階には大広間と奥広間があります。大広間は仕切れるようになっており、「桜」と「紅葉」という名前がついています。それぞれの床柱には、その名の木材が使用されています。

 大広間で特筆すべきは、建築当時のものであるガラスの引き戸です。現代の工業製品とは異なり、一枚一枚が微妙に表情を変える手作りのガラスは、時代の移ろいを映す貴重な意匠となっています。
桜と紅葉の間に分かれる二階大広間。手作りガラスの引き戸が特徴
 大広間には、西郷隆盛直筆の「敬天愛人」の書をはじめ、歴史的価値の高い調度品が数多く配されています。作家の池波正太郎氏など、多くの文化人が訪れたこの空間は、時代を超えて、その格式と伝統を今に伝えています。
大広間に掲げられた西郷隆盛直筆の「敬天愛人」の書

今に生きる東京歴建

 2029年に築100年を迎える『ぼたん』。建築の細部に至るまで、当時の棟梁と職人たちの卓越した技術と美意識が結実しています。現在も伝統の炭火による鳥すきやきを、創業時と変わらぬ調理法で提供し続けています。建築と料理、双方に息づく歴史の重みをぜひご体感ください。

ぼたん

東京都千代田区神田須田町1丁目15番地 website: https://www.instagram.com/sukiyaki_botan/ tel: 03-3251-0577

1929年に建てられた鳥すきやき専門店「ぼたん」は、重厚な入母屋造りの外観と、部屋ごとに異なる意匠の天井や欄間など、大正から昭和初期の建築美を今に伝える歴史的建造物です。
1897年の創業以来、伝統の味と空間を守り続け、東京大空襲も免れた貴重な建物として、2001年に東京歴建に選定されています。

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