早稲田大学 1号館・2号館
田中 聡 さん
「記憶の風景」を次世代へつなぐ|東京歴建『早稲田大学 1号館・2号館』を守る現場
早稲田大学 早稲田キャンパス正門付近には、国の重要文化財『大隈記念講堂』のほか、東京都選定歴史的建造物(以下、東京歴建)『1号館』『2号館』があります。歴史的建造物が形成する景観は、早稲田大学の在校生や卒業生、地域の方々にとって記憶に残る風景です。
早稲田大学には現在400近い建物があります。すべての建物の計画から設計、工事監理、改修、保全を担う早稲田大学 キャンパス企画部 施設整備担当課長の田中聡さんに、東京歴建に関わる経緯や維持管理の難しさ、建物の見どころを伺いました。
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学生を育てる「前向きな建物」に関わりたい
- キャンパス企画部の役割を教えてください。
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田中さん:キャンパス企画部では、早稲田大学のキャンパスにあるすべての建物を担当しています。数は400近く、広さは約240万平方メートルです。東京ドーム約50個分の広大な敷地にあるすべての施設や設備の計画から設計、工事監理、改修、保全に関わっています。
国の重要文化財や東京歴建などの歴史ある建物から、最先端の設備を導入した建物まで、さまざまな建物を扱っています。建物一つひとつが異なるため維持管理は大変ですが、多くの知識やノウハウを得られる刺激の多い環境です。
- 田中さんがキャンパス企画部で働くことになった経緯を教えてください。
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田中さん:私は早稲田大学 建築学科の卒業生で、卒業後は設計事務所で空調設備や給排水衛生設備の設計を担当していました。
そんななか、ある知人から「世の中にいろいろな建物があるなかで、大学の建物は学生を育てる施設、成長を促すための施設だから前向きな建物が多い」という話を聞く機会がありました。前向きな建物、言い換えると活気ある建物の計画や維持管理に関わるのは面白そうだと興味を持ちました。加えて、母校のキャンパス整備に関われる機会はそうないと思い、早稲田大学への転職を決めました。
入職後は、主に既存の建物の維持管理や改修を担当しています。新築も一部扱いますが、既存建物の整備が中心です。
- 1号館や2号館について、どのような想いをお持ちですか?
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田中さん:1号館、2号館といった個別の建物というより、大隈記念講堂から正門を通って大隈重信像までをつなぐ「軸路」に対する強い想いがあります。ここは早稲田大学の現役生のみならずOB・OGを含めて「心のふるさと」とも言える場所です。私自身、早稲田大学のことを思い出すとき、いつもこの景観が頭に思い浮かびます。大切にされている場所だからこそ、しっかり守らねばという気持ちを持っています。
整備指針に基づく歴史的建造物の保全
- 東京歴建を維持管理する上ではどんな難しさがありますか?
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田中さん:1号館、2号館に限ったことではありませんが、歴史ある建物の維持管理では、建物を含めた景観をできるだけ変えないことが基本的な考え方です。そうした考え方で進める上で課題となるのが、建設当時の材料が手に入りにくくなっていることです。
国の重要文化財である大隈記念講堂であれば、外壁のタイルは同じものがもう手に入りません。同じ質感の材料を手に入れようとすると、時間も費用も掛かります。将来の修繕を見越して、できるだけ材料を確保していますが、あらかじめ確保するにも限界があります。加えて、空調設備のなかった建物に設備を導入する際は、 空調配管や室外機の設置場所をはじめ、検討すべき課題が多くあります。計画段階から設計、実際の工事まで、各プロセスでさまざまな難しさがあります。
- 早稲田大学には400近い建物があり、多くの方が維持管理に関わります。長きにわたって統一感を持って整備するために、どのような工夫をされていますか?
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田中さん:建築学科の先生にも参与として入っていただき、助言をいただきながら進めています。さらに大学全体で整備指針を定め、それに沿って進めています。直近では、早稲田大学が2032年に創立150周年を迎えるにあたり、2023年に『WASEDA Campus Master Plan』という整備指針を策定しました。
整備指針では、大隈記念講堂から正門を通って大隈重信像までの「軸路」を、歴史的な景観を継承するゾーンと定めています。このゾーンでは、単に高層化や高機能化を図るのではなく、できるだけ景観を維持することを大事にしています。指針があることで、キャンパス全体、大学全体でも統一感のある整備を進められます。
- 1号館、2号館が東京歴建に選定されたことについてはどうお感じでしょうか?
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田中さん:2号館は1999年に選定されていますが、1号館が選定されたのは2024年です。1号館が東京歴建に選定される可能性があることを知った際は、継続的な維持管理が可能かどうか、大学理事会で議論になりました。最終的に、大学が定めた整備指針に沿うものであり、維持管理を続けられると判断し、選定を受けることを決めました。
大学としても、東京歴建を新たな魅力と捉え、選定後はプレスリリースを出すなど積極的にアピールしています。東京歴建であることが、大学を訪れる新たなきっかけになれば嬉しいですね。
関心の高まりが保全を支える
- With!東京歴建PROJECTへの期待や今後の展望についてお聞かせください。
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田中さん:『With!東京歴建PROJECT』のホームページに掲載されている他のインタビュー記事も拝見しましたが、歴史ある建物を守りながら使い続けることは、SDGsやカーボンニュートラルにもつながります。持続可能性にも寄与しているという点で、早稲田大学の積極的な取り組みをぜひ知っていただければと思います。
また、プロジェクトを通じて歴史的建造物への関心が高まり、さまざまな建造物の保全を後押ししたり新たな選定につながったりすれば嬉しいです。
- 早稲田大学を訪れる方にはどういった楽しみ方をしてほしいですか?
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田中さん: キャンパス全体の雰囲気を感じてほしいです。特に正門から続く「軸路」では、歴史的な景観のなかで大学の歴史を感じてもらえればと思います。東京歴建の建物内には歴史館や博物館が併設されており、一般にも公開されています。ほかにも、早稲田大学には演劇、文学、スポーツなど多彩なテーマの文化施設がありますので、お気軽に訪ねてみてください。