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東京歴建の裏側にある物語や想いをご紹介。

日証館
伊勢谷 俊光 さん 

時代とともに進化する|東京歴建『日証館』が紡ぐ兜町の未来

INTERVIEW

 2024年12月に東京都選定歴史的建造物(以下、東京歴建)に選定された『日証館』。東京証券取引所などがあり、古くから「金融の街」として知られる日本橋兜町・茅場町エリアで最も歴史のあるオフィスビルの一つです。平和不動産株式会社は、この建物の維持・運営管理のみならず、エリア全体の街づくりを通じて地域に貢献しています。今回は、同社で働く伊勢谷俊光さんにお話を伺いました。
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伊勢谷 俊光 さん
平和不動産株式会社 ビルディング事業部 課長 兼 地域共創部 課長

日証館 建物詳細ページ

東京都中央区日本橋兜町1-10

1928年、渋沢栄一邸跡地に建てられた「日証館」は、横河工務所の代表的な建築作品です。アーチ状の開口部が連なる重厚な外観が特徴で、震災復興を象徴する建物として日本橋兜町の歴史的景観を今に伝えます。2024年12月に東京歴建に選定されています。

社員のみならず、入居企業からも長く愛されてきた建物

平和不動産が日証館に携わった経緯を教えてください。
伊勢谷さん:日証館が建設されたのは1928年。関東大震災により焼失した渋沢栄一邸の跡地に、東京株式取引所の付属施設として建てられました。その後、戦争を経て1947年、日本証券取引所が解散することになり、証券取引所施設の賃貸・管理会社として平和不動産が設立され、日証館に本社を置きました。平和不動産という社名も、終戦直後の創業であることから、末永い平和を祈ってという由来があります。
伊勢谷さんが日証館に関わることになった経緯を教えてください。
伊勢谷さん:私は2007年に平和不動産に新卒で入社しました。もともと古い建物が好きで、日証館のことは入社前から知っていましたし、いつか関わりたいと希望していました。入社して数年経った頃に、日証館をはじめ自社保有のビルを管理運営するビルディング事業部へ配属となりました。

 日証館は平和不動産で働く先輩社員が代々受け継ぎ、大切に守ってきた建物です。担当になったときは、嬉しさと同時に責任も感じました。配属後、2011年からの省エネルギー化工事と、2012年からの耐震改修工事で日証館に深く関わりました。

 現在は、ビルディング事業部に加えて地域共創部の業務も兼務しています。地域共創部では、日本橋兜町・茅場町エリアの賑わいづくりや地域との交流などエリアマネジメントを行っており、街づくりを進める中で日証館をはじめ自社保有のビルをどう活用するのかを考え、実行しています。
日証館に携わる中で、感じたことはありますか?
伊勢谷さん:平和不動産は創業からずっと本社機能を日証館に置いているため、働く社員全員がこの建物に愛着を持っています。私が担当する前にも修復工事が行われていましたが、建物の佇まいをできるだけ崩さないよう、大切にされてきたことが伝わってきます。私が工事を担当した際も、設計図面など過去の資料を見ていると、「そこってどうなっているの?」と尋ねてくる社員もいるほど。これまでの歴史の中で建物の意匠は変化してきましたが、建物の価値は大事に守られてきました。

 そんな日証館に魅力を感じてもらっているためか、長期的に入居するテナントが多いのも特徴です。新築ビルをはじめ多くの選択肢がある中で、日証館を選んでくださっているのは光栄です。歴史的な価値を持ちながら、不動産としても優れた建物だと思います。

東京歴建への選定と、建物を活かし続けるための取り組み

省エネルギー化工事や耐震改修工事を進める上で、苦労されたことを教えてください。
伊勢谷さん:省エネルギー化工事では、屋根や外壁に断熱処理を施したり、開口部のサッシやガラスを入れ替えたりと、工事期間が1年以上に及ぶ大掛かりな工事でした。単に機能性を高めるだけでなく、歴史的価値を損ねないよう慎重に進める必要がありました。いくつもサンプルを試しながら最適な素材を選びました。

 耐震改修工事についても、通常の基準を上回る耐震性を確保しています。1928年の竣工から100年近い歴史がありますが、多くの社員が大切にしてきたことで、今後も歴史的価値は守られるのではないかと思います。
2024年12月、東京歴建に選定されたときのお気持ちを教えてください。
伊勢谷さん:一般的に歴史的建造物として認定を受けると、「変えてはならない」「守らねばならない」など、制約が多くなる印象を持っていました。その点、東京歴建はある程度自由度が高いところが魅力です。「歴史的な価値を守りながら、現代に合わせてアップデートする」という私たちの考え方にも合っていると感じました。

 東京歴建に選定されたことで、私たちが大切にしてきた建物にお墨付きをもらえたと非常に誇らしく思います。日本橋兜町の魅力を伝える取り組みは以前から続けてきましたが、東京歴建という特徴が加わったことで、より多くの方に日証館や兜町エリアを知っていただけるのではないでしょうか。

「コト始めの街」としての街づくりにも取り組む

日本橋兜町エリアを「コト始めの街」として街づくりを進めていますが、この取り組みの背景を教えてください。
伊勢谷さん:「銀行発祥の地」「郵便発祥の地」としても知られるように、日本橋兜町は古くから「コト始めの街」と言われています。今で言うベンチャー企業が多く集まる街という感じでしょうか。こうした歴史を活かし、街づくりを担う地域共創部でも、「新しく何かを始める人を支援する」という考え方を大切にしています。

 具体的には、ビルのテナント誘致で、新しいチャレンジを始める方とタッグを組んでいます。また金融の街という観点でも、海外の資産運用会社や金融系商品のベンチャー企業に入居してもらえるよう誘致してきました。新たにチャレンジする人や企業を応援し、街に賑わいが生まれるように仕掛ける。そうすることでこのエリアでチャレンジしたい人を増やすのが狙いです。
街づくりの中で、日証館はどのような役割を担っているのでしょうか?
伊勢谷さん:日証館は日本橋兜町の北端に位置し、人々の通過動線にないため、ここまで足を運んでもらう動機づくりを意識しています。1階に魅力的な店舗を誘致したのもそのためです。まずは「人が訪れる理由」をつくり、その上でこのエリアに滞在したくなるよう、ビル周辺にベンチを設けたりもしています。

 建物単体ではなく、街全体で考える。街が賑わえば、働く人から訪れる人まで全員の満足度を高められます。日証館は、いわば街づくりの起点です。東京歴建という特徴も活かしながら、街づくりに役立てたいと考えています。

建物から街全体へ、魅力を広げる

『With!東京歴建PROJECT』に期待することを教えてください。
伊勢谷さん:このプロジェクトを通じて、さまざまな東京歴建を多くの方に知ってほしいです。一方で、東京歴建に選定されていない建物の中にも、魅力的な歴史的建造物はたくさんあります。当社はそういった建物にも注目し、リノベーションによって再生させる事業を行っています。このプロジェクトが、さまざまな建物を知るきっかけになれば嬉しく思います。
最後に、これから訪れる方へメッセージをお願いします。
伊勢谷さん:日証館では、竣工当時から受け継がれる重厚な佇まいや1階のアーチ状の開口部など、外観を味わってください。平日の日中はエントランスホールにも入れますので、大理石のフロアや現役の郵便箱、美しい天井や照明などもご覧いただければと思います。

 そして、日証館だけでなく日本橋兜町という街全体の魅力も感じていただきたい。街巡りのマップなど楽しむ仕掛けも用意していますので、歴史的な景観を味わいながら、この街ならではの雰囲気を感じてください。

伊勢谷 俊光 さん
平和不動産株式会社 ビルディング事業部 課長 兼 地域共創部 課長

日証館 建物詳細ページ

東京都中央区日本橋兜町1-10

1928年、渋沢栄一邸跡地に建てられた「日証館」は、横河工務所の代表的な建築作品です。アーチ状の開口部が連なる重厚な外観が特徴で、震災復興を象徴する建物として日本橋兜町の歴史的景観を今に伝えます。2024年12月に東京歴建に選定されています。

インタビューを終えて

 100年近い歴史を持つ東京歴建『日証館』が、多くの方々によって代々守られ、時代に合わせてアップデートされてきたことを感じました。歴史を今に伝えるだけでなく、兜町の歴史を象徴する建物として、街づくりの起点にも位置づけられています。歴史あるものを活かしながら街づくりを進める。伊勢谷さんをはじめ、平和不動産の取り組みに注目したいと思います。

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