東京歴建の魅力

東京歴建の魅力をくわしくご紹介。

旧博物館動物園駅

チャンスは一度きり。御前会議の勅許で誕生した東京歴建『旧博物館動物園駅』

REKIKEN

 多くの文化施設が集まる上野公園に、現在は使われていない「駅」があります。京成電鉄の「博物館動物園駅」で、1997年に営業休止となるまで帝室博物館(現:東京国立博物館)や恩賜上野動物園の最寄駅として多くの方々に利用されました。

 営業休止後も駅舎はそのまま残され、2018年に鉄道施設としてはじめて「東京都選定歴史的建造物(以下、東京歴建)」に選定されました。同年、東京藝術大学の協力のもと京成電鉄による改修工事が行われ、イベント開催時などに一般公開されるようになりました。往時の面影を残すこの駅舎は、上野公園の一角で静かな存在感を放っています。現在は『旧博物館動物園駅』と呼ばれるこの駅舎が歩んだ歴史と、その見どころをご紹介します。
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旧博物館動物園駅駅舎 建物詳細ページ

東京都台東区上野公園13番23号 website: https://www.keisei.co.jp/keisei/hakudou/index.php

1933年開業の旧博物館動物園駅は、方形屋根で円柱の付いた出入口部分と陸屋根の階段部分を組み合わせた西洋風の外観が特徴です。桜色の万成石と呼ばれる御影石が貼られ、軒飾りにはアカンサスの葉模様が施されています。鉄道施設としてはじめて、2018年に東京歴建に選定されました。

御前会議での勅許を得るチャンスは一度きり。特別な土地に建った駅

 「博物館動物園駅」が開業したのは1933年12月です。京成電鉄が上野方面への延伸を進める中で、日暮里駅と上野公園駅(現:京成上野駅)の中間に位置する駅として誕生しました。

 この駅の建設で最大の難問となったのは、皇室で代々引き継がれてきた「世伝御料地(せでんごりょうち)」という特別な土地に駅をつくることでした。この土地に駅舎を建設するには、御前会議での天皇陛下の勅許を得る必要がありましたが、御前会議に臨めるのは一度きり。否決された場合は打つ手がないという大変厳しい状況でした。そのような状況でしたが、京成電鉄は都心乗り入れという悲願を達成するため、不退転の決意で御前会議に臨み、1932年3月に無事勅許を得ることができました。

 上野公園エリアの鉄道敷設工事では厳しい条件が付されました。公園の地上部は走行不可のため地下トンネルを掘る必要がありました。加えて公園内の樹木を損傷してはならず、地中の根を避けて線路の位置が決められました。こうした難題を一つひとつクリアした結果、上野公園内に「博物館動物園駅」が誕生したのです。
古代ギリシャの神殿を思わせる荘厳な外観。「世伝御料地」という特別な土地に建てられた

古代ギリシャを思わせる荘厳な外観と、市民の手で再び灯った光

 『旧博物館動物園駅』の駅舎外観は、西洋風の荘厳なつくりとなっています。御前会議の際、「世伝御料地内に建設するため品位に欠けるものであってはならない」とのお達しがあったといわれています。この特別な土地に恥じぬ駅舎、周囲の堂々たる建物に引けを取らない駅舎にしようと、格式高い設計が求められました。そのため駅舎の設計は、当時の鉄道省の建築課に依頼して行われました。

 堅牢な鉄骨鉄筋コンクリートの上に、桜色の万成石(まんなりいし)と呼ばれる御影石が貼られています。軒飾りには「アカンサス」と呼ばれる特徴的な葉模様の意匠が施されました。これは古代ギリシャの建築にも見られるものです。現地を訪れた際はぜひこの葉模様に注目してみてください。
古代ギリシャ建築にも見られる「アカンサス」の葉模様が施された軒飾り
 軒飾りから視線を下げると、駅舎の出入り口となる正面扉が目に入ります。この扉には東京藝術大学・日比野克彦先生がデザインしたレリーフが施されています。レリーフは上野を象徴する9つの文化・教育施設をテーマとしたものです。「上野の森美術館」「国立西洋美術館」「東京文化会館」「国立国会図書館国際子ども図書館」「東京都美術館」「東京国立博物館」「国立科学博物館」「恩賜上野動物園」「東京藝術大学」を表しています。じっくり観察し、どのモチーフがどの施設か当ててみてください。
東京藝術大学教授・日比野克彦さんがデザインした9つの文化・教育施設のレリーフ
 正面扉の左右にある外壁照明も注目ポイントです。開業時には照明器具がついていましたが、戦時下の金属類回収令ですべて取り外され、そのままになっていました。しかしNPO法人上野の杜芸術フォーラムの皆さんが、「戦時中に失われた光を市民の手で取り戻したい」と復元を決意しました。2010年に募金活動を行い、約70年ぶりに1灯目を復元しました。2灯目はクラウドファンディングにより2024年に復元されました。
復元された外壁照明。昼間と夕方以降で異なる表情を見せる
 この外壁照明によって、『旧博物館動物園駅』は昼間と夕方以降で異なる表情を見せます。ほのかな光に照らされた幻想的な夜の駅舎も、ぜひご覧ください。

時が止まった空間。普段は入れない駅舎内部を特別に紹介

 普段は入ることができない駅舎内部も特別にご紹介します。正面扉を開けて足を踏み入れると、頭上に漆喰のドーム天井を見られます。このドームには、中央に向かって収れんする格子のまっすぐなライン、枠取りの中の凝った細工など、高度な技術がうかがえる意匠が施されています。かつては中央にシャンデリアがかかっていました。
格子と枠取りの細工が美しい漆喰のドーム天井
 階段を降りると、左右の壁面に落書きがあることに気づきます。最後の営業日は1997年3月31日。その日、別れを惜しんで多くの人が集まり、構内の壁にたくさんのメッセージが書きつけられました。この駅に込めた思いのある落書きは、リニューアル工事の際にあえて一部を残すことにしたそうです。駅舎入口の正面扉やドーム天井もエイジング処理をして周囲の雰囲気と調和するように作られています。
壁面には最後の営業日に書かれたメッセージが残る
 階段の踊り場には、営業当時の設備の跡を見られます。踊り場から先の階段を降りることはできませんが、地下の線路は今も現役で使用されており、数分おきに電車が通過する音が聞こえます。すでに使われていない駅の空間を、現役の電車が走り抜けていく。その音を聞きながら、不思議な感覚を味わえます。
階段の踊り場。窓口や看板が営業当時の面影をとどめている

「駅」から「文化・芸術の場」へ

『旧博物館動物園駅』を所有する京成電鉄は、この建物の歴史的価値を多くの方々に知ってほしいと、さまざまな取り組みを実施しています。

 企業や団体とコラボレーションし、アートやアニメに関するイベントなどを開催。イベント開催時には、駅舎内部に入れる機会が設けられることもあります。駅舎内部に入れる機会は限られていますが、西洋風の荘厳な外観、扉のレリーフ、復元された外壁照明など、外から眺めるだけでも十分に楽しめる建物です。

「駅」から「文化・芸術の場」へと新たな役割を担う『旧博物館動物園駅』。上野公園を訪れた際には、特別な歴史を持つこの東京歴建に、ぜひ足を運んでみてください。
時が止まったような空間が往時の姿を今に伝える

東京歴建を未来へ。皆様のご支援をお願いします

 歴史的建造物の保存や修復には多くの費用が必要です。東京都は社会全体で東京歴建を支援するため、東京都防災・建築まちづくりセンターの「東京歴史まちづくりファンド」による助成を通じて保存などの支援を行っています。貴重な建造物を未来へ引き継ぐため、引き続き皆様のご協力をお願いいたします。

旧博物館動物園駅駅舎 建物詳細ページ

東京都台東区上野公園13番23号 website: https://www.keisei.co.jp/keisei/hakudou/index.php

1933年開業の旧博物館動物園駅は、方形屋根で円柱の付いた出入口部分と陸屋根の階段部分を組み合わせた西洋風の外観が特徴です。桜色の万成石と呼ばれる御影石が貼られ、軒飾りにはアカンサスの葉模様が施されています。鉄道施設としてはじめて、2018年に東京歴建に選定されました。

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